目と目を合わせてからはじめましょう
 「そうそう美咲ちゃん。来週、沖縄行く事にしたからね」

 ステージ衣装からニットのワンピースに着替えた友梨佳叔母さんが、紙コップのコーヒーを飲みながら言った。

 「はあ? 聞いてないよ。そんな急に言われたって、仕事があるから無理だよ」

 私は、メイク道具を片付けなながら答える。全く、いつも勝手に色々決めてしまうのだから。


 「そう? 美和社長は調整できるから大丈夫だって言ってたけど」

 「そんな事ないよ。ちなみに何日から?」

 一応、予定を聞いてみる。
 私は、肩に掛けていたポシェットからスマホを取り出した。

 「月曜の早朝の便で、帰りは水曜の夕方よ」

 月火と連休で、水曜は何故か予約が入っていない。

 「あら? 確かに…… 休みだね。でも、どうせなら新しい水着が欲しかったのに」

 私ほ頬を膨らませた。

 「いいじゃない。むこうで買えば。私も買う予定だし」

 「そ、そうなの?」

 友梨佳叔母さんを見て思った。スタイル良すぎ。私、負けているかも……


 友梨佳叔母さんと並んで会場を出ると、入り口が騒がしい。主催側の政治家らしき人が、車に乗るところのようだ。 

 政治家の斜め後ろを歩く、大男の姿が目に入っってきた。嫌でも分かってしまう、
 雨宮だ。

 彼の鋭い視線と、俊敏な動き。堂々としている姿は、かっこいい…… じゃない……

 やっぱりなんかモヤモヤする……
 私の上に乗った男。パンツ見た男。嫌な奴。怖い奴。心の中で唱えた。


 「うわああっ」
 突然、道路の反対側で、男の叫び声がした。
 一瞬にして、黒いスーツの男達の動きが変わった。同時に大きな黒い影が目の前を舞った。

 一瞬の出来事で何が起きたの分からない。私からは離れた距離だがしっかりと見えた。雨宮が男の腕と肩を地面に押さえつけている姿が。 

悲鳴やざわめきの中、黒いスーツの男や関係者によって、あっという間に付近の客はいなくなり、数台あった車も走り去って行った。雨宮の周りをパトカーが囲い、彼の姿は見えなくなってしまった。

 「びっくりしたわね?」

 友梨佳叔母さんも、流石に驚いたようだ。

 「う、うん」

 「咲夜ちゃん大丈夫?」

 おばさんが心配そうに私の顔を覗き込む。
 怖かった……
 手が震えていた。

 雨宮は怪我しなかったのだろうか? 大丈夫だったのだろか?

 「何か飲んでから帰ろうか?」

 叔母さんの言葉に、こくりと頷いた。
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