目と目を合わせてからはじめましょう
 〜雨宮太一〜
 湯之原五郎の警護は、あの法事一日で終了となった。狙われている気配はなかったし、まあ、終了で問題はないが、どちらかというと、孫娘の家の方が気になる。確かに、あの家を見てる嫌な視線を感じた。不審者が出ている報告もある。犯人が捕まるまでは用心し方がいい。

 予定より早めに出社すると、システム科の扉を開けた。

 「お疲れ様です」

 「お疲れ様です」

 システム課は、うちが契約している防犯カメラの確認や、警報が出れば警備課との連携をとる役割をしている。俺は、空いていた席に座り、彼女の家の住所を検索した。

 「何かありましたか?」

 課長が隣にきた。課長の岸田は、俺より二つ上の先輩だ。細身で見るからに警護と言うよりシステムという顔をしている。見た目通り、情報技術に関して優れており、信頼できる男だ。

 「ええ。ちょっと気になる事が…… この辺りで不審者の通報がありましたよね?」

 俺は彼女の家の付近の防犯カメラの映像を見せた。課長は、手早にパソコンのキーボードを叩いた。

 「近くではありますが、区域が違いますね」

 「そうですか」

 俺は彼女の家のシステム番号を表示すると課長に見せた。

 「警護区域にしてもらえますか?」

 「わかりました」

 課長は、何も言わず承諾してくれた。


 俺は、そのまま備品庫に行くと、携帯用の防犯ブザーをとりだした。ブザーを押すと、システム課に通報され、警備課が動く事になっている。

 俺は、登録した防犯ブザーのナンバーを課長に伝える。

 「このナンバーの通報が来たら、俺のスマホにも通報が来るようにセットしてもらえますか?」

 「はい。承知しました。新しい依頼者ですか?」

 「いえ、そうではないのですが……」

 これは私用になるのか? 何故か語尾を濁らせてしまった。


 「もしかして、彼女ですか?」

 課長がニヤリとして、俺の方を見た。

 「そ、そんなんじゃないですよ」

 「だって、お綺麗な方じやないですか?」

 課長が、画面を顎でさす。

 しまった、彼女の家の防犯カメラを確認画面にしたままだった。画面には、彼女が玄関のドアの鍵をかけて出ていく姿が映っていら。俺は、慌てて画面を切り替えた。


 「こりゃ心配だわ。雨宮さんが守ってあげないとですね」

 「任務ですから。とにかくお願いします」

 俺は、課長にこれ以上悟られないよう、無表情に頭を下げ警護課に向かった。

 今日は、数ヶ月前がら予定されていた大きなイベントの警護依頼がは入っている。
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