目と目を合わせてからはじめましょう
  そして我々がたどり着いたのは、湯之原の家。大お爺様が住んでいたお屋敷だが、今は湯之原じーちゃんと、ばーちゃんこと美和さんが住んでいる。なぜ美和さんと呼ぶかというと、私の上司だからだ。美和さんは私の勤める美容室の社長だ。

 「皆さんお上がりになって。お疲れでしょう」

 お手伝いさんが開けた玄関の前で、美和さんが皆を招き入れる。


通された駄々っ広いリビングに、まるで我が家のように皆が座り始めると、お手伝いさん達により、飲み物や料理が次々に運ばれてくる。
毎年恒例になっている、法要の後の飲み会の始まリだ。

十五年間、誰一人かける事なく、続けられている。
和洋折衷、色取り取りの料理、全てママが作ったものだ。

「本当に、美月さんはお料理が上手よね。毎年、楽しみにしているのよ」

いつの間にか喪服から花柄の派手なワンピースに着替えた、市川のおばあちゃんが取り皿に料理を盛り付けながら言った。


「そうだよ、悠麻は、美月さんお料理に惚れんだもんな」

 市川のじいちゃんの言葉に、パパがジロリと睨む。

「また、昔の話を…… 料理に惚れようが、何に惚れようが、惚れてんだかからいいだろ?」

パパの開き直りに呆れるが、毎年のように、パパとママの馴れ初めに盛り上がるのだ。お見合いの後、ホテルに監禁した話。


「でも、本当に大変だったんだから、お見合いさせるのも、ホテルの部屋に閉じ込めるのも……」

 友梨佳叔母さんは武勇伝のように話すが、犯罪まがいのの話だ。

だが、パパとママはホテルで何があったのかを一切言わない。


お見合いだけは気を付けよう。と、毎年心に誓う。



「そういえば、咲夜ちゃん幾つになるんだっけ?」

「二十九歳になったばかりよ」

「本当に咲夜は、美人だし仕事のセンスもいいし、自慢の孫だわ」

 美和さんに褒められてちょっと嬉しくなる。が、職場では結構厳しく指導される。

「お義母様がそうやって、咲夜を甘やかすから、何もできない子になってしまうんですよ。お料理もろくにできない、部屋も散らかったまま、洗濯だっていいかげん。全くこの子は…… それに、家まで貰って」

始まった、ママの小言。そう、私は以前、湯之原の祖父母が住んでいた家を貰って暮らしている。パパとママはマンション生活の方がいいと言って、家を貰わなかった。

うん? ここでも感じる、違和感のある視線。

 ゆっくりと広いリビングを見渡す。廊下の隅に立ち、辺りを見渡しているあの男がいた。
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