目と目を合わせてからはじめましょう
「ねえ、悠太。あの男の人誰か知ってる?」

「ああ、なんかSPらしい」

「はあ? なんで?」

「なんでって? なあ、じーちゃんなんでSP付いてもらったんだ?」

 悠太の声に、湯之原のじーちゃんが、眉間に皺を寄せて深刻な顔をした。思わず、食べかけたチキンを飲み込んだ。

そうは言ってもSPに警護を依頼するぐらいだ、何か大きな事件に巻き込まれたのかもしれない。

思う事は皆同じなのか、不安気にじーちゃんの顔を見る。

「それがな…… 先月、大臣と一緒にいた友人が襲われてな。古くからの友人だったのに……」

「ええっー」

 皆が一斉に声を上げた。


「そんなニュースあったか?」

 悠樹が首を傾げながら言った。悠樹は、兄弟の中で唯一パパの才能を引き継いだのか? 継がなかったのか? わからないが、パパの会社キザキでデザイナーとして働いている。ただ、パパのデザインするシックで温かみのある物とは違い、なんだかよくわからないが斬新で使い勝手の悪い物が多いが、それはそれで人気があるらしい。


「その友人の容態は?」

パパが、心配そうに言った。


「それがな…… はあー。大きな擦り傷でな!」

えっ?
擦り傷? 大きな?

じーちゃんが大事件のように言った。

SPさん、何故、引き受けた。見たらわかるでしょ? 襲われる要素などない、大臣などと知り合いもいない。もし、襲う人がいるなら聞きたい。なぜ襲ったか? まあ、お金はあるかもしれないが。

 でも、ヤクザじゃなくてSPで良かったのか。

杖をついてトイレに立ち上がるじーちゃんを見て思う。SPより介護ヘルパーさんお願いした方がいいんじゃないだろうか?

何だか、皆気が抜けたように、料理を食べ始めた。


「ねえねえ咲夜ちゃん、いい人とかいないの?」

友梨佳おばさんが、目をキラキラさせて聞いてくる。

「いませんよー」

そんな事、知っているだろうに。

「だったら、とっても素敵な人がいるんだけど、会ってみない?」

「それだけは辞めておくわ。ホテルに監禁されたらたまらないもの」

「あははっ。そんな事するわけないじゃない」

「よく、言えるな?」
「よく、言えるわね?」

パパとママの呆れた声が、全てを物語っている。
< 4 / 171 >

この作品をシェア

pagetop