目と目を合わせてからはじめましょう
 急いでプールに向かうと、呑気に浮き輪に浮いている彼女の姿にほっとしたの束の間、彼女に近づく昼間のビーチハウスの男も目に入ってきた。

 あいつめ!

 俺は、バジャンとプールに飛び込んだ。ビーチハウスの男に水が被るように。

 
 彼女の目の前で顔をあげた。


 「待ってろって言っただろ?」

 苛立ちが声に出てしまったのが、自分でもわかる。

 「そうでした?」

 彼女は俺から離れるように、バタバタと足で漕ぎ出した。

 下手すぎてたいして進んでいかないが。

 「おい。上を見ろ。あれ、じいさん達じゃないのか?」

 プールサイドに足を踏み入れた時から、ホテルの上の階からの視線に気づいていた。

 あの人達は何を望んでいるのだろうか?
 少なくとも、彼女と俺が一緒にいれば、落ち着くだろう。


 彼女が持っていたカクテルのグラスを奪うと、プールサイドのテーブルに置いた。

 彼女の浮き輪の下に潜ると、一気に持ち上げた。

 「きゃあーー」

 当然だが、彼女は水の中に落ちた。

 やっぱり……


 手足をバタバタさせるだけで、泳いでいるとは言い難い。水の中から彼女を持ち上げて息を吸わせる。

 「はあー」

 「やぱっり泳げないんだろ」


 「何するのよ! 信じられい、離して!」

 「ああ、俺は離してもかまないんだがな」


 俺は、彼女の望み通り両手を上げた。

 「あっ」

 しがみつく、彼女の腕に力が入った。

 「離していいぞ」


 平然として言ったが、しがみつかれたら、当然彼女の体と密着する。別にこんな事を計算して、彼女をプールに落としたわけじゃないのだが。
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