目と目を合わせてからはじめましょう
「彼は、雨宮太一君だ。私の古くからの友人の息子さんだ。今回も無理に頼んで警護して貰っておるんだ。彼は優秀でな、今までに多くの人を危険から守っておるんだ。確か、あの外国の有名な俳優もだったな」

気の毒に…… 世の中には、本気で警護を必要としている人がいるでしょうに……
なぜ、この陽気なじーさんを警護している。

「雨宮さん、三十七歳になるの? 若くみえるわね。 ねえ咲夜?」

 美和さんに同意を求められ、
「ええ。本当に」
と、答えたが、何の話だ? まあいいか。

 だって、目の前の男も、表情一つ変えずに何も言わないのだから。


 パパとママは、湯之原の家に泊まるらしい。

「ああ! 言うの忘れてた。康介が沖縄に転勤になるのよ?」

 友梨佳叔母さんが、帰り支度をはじめている皆に向かって言った。康介叔父さんは、ホテルマンで、転勤は珍しくないが、沖縄かぁ行ってみたいな。

「ぜひ、皆さんで遊びに来てください。良いホテルですので、ご招待します」

 やったー。
 皆も嬉しい歓声を上げた。


 私は、悠矢が運転する車の前に行くと、どこからやって来たのかSP雨宮が、後部座席のドアを開けた。

「あ、ありがとうございます」

なんだか変な気分だが、車に乗り込んだ。
雨宮や助手席に乗ると、車は走り出した。

「悠矢、急いでないから、ゆっくりでいいよ」

「やだよ。俺は早く帰りたい」

「うわーっ」

車はスピードを上げだした。始まったよ、悠矢のカーチェイス。
流石に、雨宮もビビっているだろうと思ったが、頭一つ動かさない。

「雨宮さんの家ってどこですか?」

悠矢は、こんな激しい運転しながらも、呑気に世間話を始める。

「北区ですので、お嬢様をお送りしましたら、そちらで大丈夫です」」

これまた、何ごともないように平然と言葉が返ってくる。お嬢様って私の事かしら?

「いやいや、帰り道なので送りますよ」

「安定した運転をされますね。よく、訓練されてる?」

安定? この運転が? どういう感覚しているんだこの男。

 通常なら、この時間でも三十分はかかる距離を、わずか十五分ほどで我が家にたどり着いた。

車のドアに手をかけると。

「お待ち下さい」

雨宮の言葉に、思わず腕を引っ込めてしまった。なんか怖いんだよな…
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