目と目を合わせてからはじめましょう
 「うっ…… なんでこんな事するんですか?」

 彼女が鋭い目で睨んでくる。

 なんで?
 そうだよな。自分でもよくわからない。任務が終わり旅行気分にでもなってしまったのだろうか。


 どうせならと、俺は無理矢理だが彼女に泳ぎを教えた。きっと、ライトアップされた夜のプールにはふさわしくない行動だとは思うが。

 「なあ。あんた、子供っぽいとか言われないか?」

 俺は、彼女の手を取りながら言った。

 「はあ? 失礼ね。まあ、言われる事もありますけど…… 」

 「だろうな。小学生だって、もう少しまともに一人遊び出来るぞ。今日一日、ハラハラした」

 「ハラハラ? 何かハラハラする事ありました?」

 彼女の言葉に呆れる。俺の今日一日の心労なんて彼女は全くわかっていないのだろう。


 「自覚ないのか? どういう環境で育ったんだ?」

 「見てたら分かるでしょ。私、とーても大事に育てられたのよ。ママとパパはマイペースだったけど、弟が三人もいたから、じいちゃんや叔母さんがよく面倒見てくれた。特にひいじいちゃんは、異常なくらいに可愛がってくれたの。愛情が多すぎて、いつも誰かが守ってくれていた。だから、自立出来ていないのよ」

 言っている事は幸せな環境で育った話なのに、どこか寂しげな表情は何故なんだろうか?


 「自立していなことは自覚しているんだな。でも、仕事している姿は、責任感あるなと思ったけど」

 彼女が少し驚いたように俺を見た。プールに落ちたせいで濡れた髪が頬にかかり、ライトアップされた光が反射して、昼間より色っぽく見えた。


 責任ある仕事している姿だっと思ったこは本当だ。

 皆に守られて育った彼女。そして、誰かを守るために生きている俺。

 一見、とてもバランスの取れる関係のように思えるかもしれないが、俺には深い距離のようなものを感じた。


 彼女との事は、どう考えたって意識せざる負えない出来事ばかりだ。これも、彼女の家族の計算なんだろう。おかげで、俺は彼女に振り回されっぱなしだ。

 確かに、美人なだけじゃなく、面白い女だと思う。それに、綺麗だ……

 だけど、簡単に一緒にいてはいけない、そんな気がした。
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