目と目を合わせてからはじめましょう
 辺りを見回すが、声がする方には誰の姿もない。

 怖い。

 一気に大通りに向かって走り出した。

 全速力で走ったが、後ろから追いかけてくる気配がする。
 どうしよう。

 走りながら、鞄の中の防犯ブザーを探し出すと、ボタンらしきものを押した。
 辺り一帯に、ビーっという高い音が響いたが、周りに誰もいない。

 この公園を過ぎないと、人の多い通りに出られない。

 必死に走ったが、息が追いつかない。

 ヒエーーッ

 後ろから追ってきていると思っていた人影が、突然目の前に現れた。


 驚きのあまり声が出ない。


 黒い帽子を被った男の手が、握りしめていた防犯ブザーに向かって伸びてきた。恐怖のまり、ブザーを手から離した。
 男はブザーを拾うと、さっき私の押したボタンを押した。響いていたブザーは鳴りやんでしまった。

 どうしよう……

 男が近づいてくる。

 後退りすると、ポケッとの中のスマホが鳴った。でも、どうすることも出来ない。

 「僕の事知ってるよね」

 男が、ゆっくりと近づきながら帽子を取る。

 知らない。こんな人知らない。
 私は、大きく首を横に振った。


 「そんなはずはない。いつも僕の方を見て笑ってくれたじゃないか」

 笑った覚えなんてない。

 「市川咲夜さんでしょ?」

 恐怖のあまり、体が固まったまま動かない。


 「どうしてそんな顔するの? いつもみたいに笑って」

 何、この人?

 持っていたバックを、男に向かって思いっきり投げつけた。

 「痛っ」

 その隙に、向きを変えて走り出した。

 だが、ガシッと腕を掴まれてしまった。
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