目と目を合わせてからはじめましょう
 「離して!」

 「離すわけないだろ」

 大きく目を見開いた男の手が大きく振り上げられた。

 殴られる!

 目を瞑った瞬間。

 「おい! 何してる!」

 鋭い声が辺りに響いた。

 この声、間違いない。


 車から飛び降りてくる雨宮の姿が目に入った瞬間、光のような速さで男の腕が蹴り上げられた。

 「うっ」

 男の呻き声がした。


 すると、キラリと光った物がナイフだと分かった時には、男に後ろから首筋に突きつけられていた。

 こんな状況でも、雨宮は平然と構えている。

 「彼女を傷つけたいのか?」

 落ちつた雨宮の声が、恐怖でたまらない私を落ち着かせてくれる。

 「うるさい!」

 男の焦った声が、耳元に響く。


 雨宮が、チラリと何かを見た瞬間、男の腕が私から離れた。バシッと何度か音がした後、男が別の黒い服の男に抑えつられていた。そして、黒い車が、急ブレーキをかけて止まった。

 何が起きているのかさっぱり分からない。

 「大丈夫か?」

 雨宮が、動けずにいる私に手を差し伸べてきた。私は、何も考えらなかった。ただただ、目の前にある大きな胸に飛び込んだ。

 「わ〜ん わ〜ん」

 訳もわからず声をあげて泣いた。
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