目と目を合わせてからはじめましょう
「もう、大丈夫だ」

背中をさすりながら、宥めるような雨宮の声に、益々泣けてきてしまう。パトカーのサイレンの音が近づいて来るのが分かったが、サイレンの音に負けないぐらいに泣き続けた。


 「おい、姉ちゃん大丈夫か? 怖かったのは分かるけど、そろそろ泣きやめよ」

 「悠矢! なんであんたがここに居るのよ?」

 雨宮の後ろに立つ悠矢の姿に、なぜか涙が止まった。


 「話せば長くなるから、また今度な。警察署に行かなきゃならないらしいから、車に乗れよ」

 悠矢はさっき急ブレーキで止まった車の運転席に乗り込んだ。


 「ほら、歩けるか?」

 雨宮に手を差し出され、コクリと頷いた。


 悠矢が運転する車に、もう一人のSP高木と名乗る男と、雨宮と私が乗っている。

 「どうぞ」

 高木がペットボトルの水を差し出してくれた。

 「ありがとうございます」

 冷たい水が喉に染み渡り落ち着いてきた。


 「姉ちゃん。大人なんだから泣き方もう少し気をつけろよ。子供だってあんな泣き方しないぞ」

 悪かったわね。悠矢に言われるとは情けない。


 「無事でよかった」

 雨宮が、この時言った言葉は、それだけだった。


 警察署に着くと、その時の状況を一通り話した。警察官に、犯人の男に見覚えがないかと何度も聞かれたが、全く知らない人だ。

 「咲夜! 大丈夫か?」

 「パパ! ママ!」

 警察署の入り口から、パパとママが血相抱えて入ってきた。


 「うん。ちょっとびっくりしただけ」

 「あれが、ちょっとかよ」

 悠矢が呆れように言う。


 「悠矢。あんた何でここにいるの?」

 ママも驚いたようだ。

 「色々事情があるんだよ」

 「まさか、あんた警察のご厄介になってるんじゃないでしょうね?」

 ママの顔が冗談ではなく、不安そうな表情に変わった。

 「俺は、姉ちゃん助けたんだぞ」

 「そうなの? 雨宮さんにもご迷惑おかけしてしまい、本当にありがとうございました」

 二人が深々と頭を下げた。

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