目と目を合わせてからはじめましょう
 雨宮に促され、リビングらしき部屋へ行くと、テーブルの上にパン屋さんの大きな袋が置かれていた。いい匂いが漂ってくる。
 雨宮がキッチンにたち、コーヒーを入れてくれているようだ。

 「コーヒーでいいか?」

 「はい」

 「砂糖、ミルクは?」

 「ブラックで大丈夫です」

 「適当に座ってくれ」

 空いているソファーに腰を下ろした。


 雨宮は、コーヒーの入ったカップをテーブルにおくと、パンの袋を開いた。中からは、美味しそうなサンドイッチや惣菜パンがいくつも出てきた。

 「美味しそう」

 思わず声が漏れてしまった。

 「好きなのを食べろ」

 「いいんですか。いただきます」

 私は両手を合わせると、ピザ風のパンに手を伸ばした。


 パクりと頬張る。

 「うわー 美味しい」

 まだ、ほんのり暖かくて、ピザソースがパンに絡んで美味しいすぎる。あっという間にペロリと食べてしまった。あれもこれも食べたい。悩んだあげく、サンドイッチに手を伸ばした。シャキシャキのレタスにみずみずしいトマト。

 「美味しいー」


 ふっと笑ったようなため息をつき、雨宮はカレーパンに手をのばした。ピザパンの後で、カレーパンはちょっと胃もたれしそうだと諦めたものだ。

 サンドイッチも食べ切ってしまい、お腹もいっぱいになってきたのだが、くるみとレーズンの甘めのパンが気になる。食べたい。でも、食べすぎだと思われるよね。最近、体重も増え気味だし。

 食べることを諦め、パンから目を外してコヒーカップに目を向けた。


 「ほら」

 雨宮が、食べたかったクルミとレーズンのパンを私の前に置いた。

 「いえ。もう、お腹いっぱい……」

 「遠慮しなくていい」

 「でも、どうしてこのパン……」

 そっと、差し出されたパンに手を伸ばす。

 「それだけじっと見てたら、誰だってわかるよ。それに、食べられるなら、とりあえず大丈夫だな」

 「うっ。いただきます」
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