目と目を合わせてからはじめましょう
 私は、食べたかったくるみとレーズンのパンを口に入れた。やっぱり、美味しい。自然と口元が緩んでしまった。

 雨宮が入れてくれたコーヒーを一口飲み、ほっと一息ついて部屋の中を見回した。結構立派なmマンションの一室だと思うが、正直、きちんと片付いているとは言えない。ゴミが溜まっているとかではないが、物が無造作に置かれている。ソファーにも、服が置かれたままだ。クリーニングから戻ってきたと思われるシャツやスーツは、開けっぱなしになってきるクローゼットにかかっているようだが。

 「あんまり、ジロジロ見るな。忙しくて片付けができてないんだ」

 「そうみたいですね」

 もう一度、コーヒーを飲む、

 「あんたも、人のこと言えないだろ?」

 うっ。
 そうだった、この男には家の中を見られていたんだ。

 「私も、忙しくて片付けが出来ていなかっただけです」

 「そうか、たまたま片付けが出来ていなかっただけか」

 「そうですけど」

 私は、少し胸を張って言った。

 「じゃあ、その家に荷物を取りに行くか」

 ぎくっ

 雨宮が、椅子から立ち上がった。


 「はあ? どうして?」

 「どうしてって、あんたの両親に頼まれただろ。預かってくれって」

 「まさか、本気にしているんですか?」

 「約束したんだから仕方ないだろ」

 雨宮が、仕方ないと言う顔で、腕を組んでい言った。


 すると、鞄の中のスマホが鳴った。

 見覚えのない番号に、戸惑いながら画面をスライドした。

 「もしもし」

 『市川咲夜さんのお電話でよろしいでしょうか?』

 知らない女の人の声だ。
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