目と目を合わせてからはじめましょう
　今だ！　髙木に合図を送る。その瞬間、高木が男の後ろから、ナイフを持つ腕を掴み、彼女とは別の方向へ押し倒した。そのタイミングで、悠太の運転する黒い車が、男を逃さないように急ブレーキをかけて止まった。

　怯えた顔で動けすにいる彼女に手を差し伸べた。

　それだけの事だったのに……

　「大丈夫か？」

　俺の声を聞いてかどうかは分からないが、突然彼女が俺の胸に飛びこんできた。

　「わ〜ん、わ〜ん」

　正直、殺人犯が飛び込んでくるより、俺の胸は緊張の音を上げたと思う。泣きじゃくる彼女に、かける言葉が見つからない。

　彼女は、俺だとわかっていて、泣きついてきているのだろうか
　それすらも分からないのに、俺の胸は大きな音を立てる。

　彼女の肩を両手でそっと抱いた。すると、彼女はもっと大きな声で泣き出した。まるで子供のように。

俺自身も、無事で良かったと思うと、自然と彼女の背中に回した手に力が入った。
ここに来るまで、何が起きているのか分からず、怖かった。

こんな思いは、したくないと思っていたのに……



　「おい、姉ちゃん大丈夫か？　怖かったのは分かるけど、そろそろ泣きやめよ」


　背後からからの悠矢の声に、慌て手を離した。別に悪いことをしている訳じゃないと思うのだが、何故か焦って彼女から離れた。

　悠矢がチラリと意味あり気に俺を見た気がする。
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