目と目を合わせてからはじめましょう
 当然だが、警察署に行き、経緯を報告する。

 連絡した彼女の両親も、すぐに駆けつけて来た。この辺は、一般的な光景だと思うのだが、迎えに来たと思った彼女の両親は、俺に彼女を託して、旅行に行ってしまった。

 仕事として依頼されたわけではないのに、引き受けてしまった事に自分でも困惑している。だが、彼女を一人にする事も嫌だと思ってしまった。

 とりあえず、彼女を家まで送ることにして、車に乗せた。


 冷静になればなるほど、彼女を襲った男への苛立ちが募ってくる。犯人は捕まったが、俺の中では、不安が消えない。

 助手席に座る彼女に、大事にならなくて良かったという思いしかない。

 だけど、口から出た言葉は、

 「だから気をつけろって言っただろ。危機感が無さすぎるんだよ」

 「ごめんなさい……」

 しゅんとして謝る彼女の姿に、しまったと思ったがもう遅い。彼女は被害者で、怖かったはずだ。悪いのはあの男なのに、つい、彼女の無防備さに苛立ってしまった。

 「とにかく無事でよかった……」

 「はい。ありがとうございました」

 「あの状況で、玄関を開けなかったのは正しい判断だと思う。あのまま家に押し込まれた可能性が高い。それに、防犯ブザー忘れてなかったんだな。だが、人通りの少ない公園は危なかったぞ」

 「少し前から、家の外で物音したりして、不審な感じがしたので……」

 「何? だったら何故、もっと早く言わなかったんだ!」

 どうしてもっと早く言ってくれなかったんだ。わかっていたら、一人で家になんて帰さなかったのに。

 「言うって、誰にですか?」

 えっ?

 自分と彼女との間に、大きな温度差を感じた。

 「うっ。それは……  警察とか、警備会社とか、俺だって……」

 そうだよな、俺に、言うはずなんて無かったんだ。


 何なんだろう? この胸の奥の痛みは?

 うん?

 寝息?

 助手席を見ると、窓に頭を預けてスヤスヤと眠る彼女の姿があった。
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