目と目を合わせてからはじめましょう
 外はうっすらと明るくなってきている。一晩中緊張して起きていたのだから、流石に眠くもなるだろう。

 それにしても、彼女はどこでも、こんな無防備な寝顔を見せるのだろうか?
 またもや不安が募ってきた。

 後部座席からジャケットを取り出して、無防備な彼女にそっと掛けた。

 彼女の家に向かいかけたが、不意に車をUターンさせた。無理に起こす必要なんてないだろう。


 自分のマンションの駐車場に車を停めると、彼女の頭を窓からそっと持ち上げた。運転席から降り、助手席のドアをあけると、彼女の体を抱き抱えた。思ったより軽々と持ち上がってしまった。

 これじゃまるで誘拐だ。起きなかったのだから仕方ないと自分に言い聞かせる。起こしてはいないが……

 マンションのドアロックに暗証番号を、ぎこちない動作で入力する。それでも、彼女は起きない。うっすらと笑みまで漏らしている。どんな夢を見ているんだか?

 こんな事があって、怖い夢でも見ていたらと思ったが、心配なさそうだ。


 寝室のベッドの布団を捲ると、彼女を寝かせた。

 布団をかけようと思った手がふと止まった。

 ブラウスの、第一ボタンが外れている、隙間からチラリと胸元が見えた。

 ヤバイ、脳裏の奥にしまってあった画像が蘇ってきた。

 白くてすべすべしてそうな肌、思ったよりふっくらした胸に程よい先端までもが、はっきりと思い出される。

 これじゃ、SPじゃなくて変態だ。


 思わず伸びそうになる手をグッと抑えて、彼女の髪をそっと撫でた。
 ぐっすり眠れ……


 自分の邪念を追い払うように熱いシャワーを浴びた。

 流石に俺も眠気がさしてきて、ソファーの上に寝転ろんだ。


 どのくらい経ったのだろうか? 思ったより寝てしまった気がする。どこからか聞こえる、スマホの着信音で目が覚めたようだ。

 音のする方へ目を向けると、車から降ろした、彼女のカバンの中からだ。
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