目と目を合わせてからはじめましょう
 しばらく鳴り続けていたが、俺が出るわけにもいかず、そのままにしておくしかない。やっと、鳴り止んだと思ったら、今度はテーブルの上の俺のスマホが鳴った。


 見覚えのない番号だ。

 「はい」

 『雨宮さん?』

 聞き覚えのあるような、ないような女性の声。

 「はい。そうですが……」

 『湯之原です。咲夜の祖母です」

 「あっ、その説はお世話になりました」

 何故、彼女の祖母が?

 『いいのよそんな事は。それより、夕べの事は娘夫婦から聞いたわ。びっくりして心臓止まるかと思った。怖いわね。それでね、さっきから咲夜に電話しているんだけど、ちっともつながらないのよ。咲夜、どうしたのかしら?』

 「ええ。まだ、寝ておりますが」

 そのままの状況を伝える事に、何も抵抗を感じ無かったのが間違いだった。


 『えっ?』

 「えっ?」

 なぜか聞き返されたので、そのまま聞き返してしまった。

 『どこで?』

 「ベッドですが……」

 『どこの?』

 「私のマンションですが……」

 『えっ』

 「えっ」


 しまった! と思った時にはもう遅かった。誘導尋問に引っかかってしまった気分だ。


 『あらやだ。そう言う事だったの。お邪魔しちゃってごめんなさい」

 「いえっ。そう言うことでは、その……」

 『いいのよ、いいのよ。今日はゆっくり休むように伝えてね。…… ちょっと、あなたぁー ツーツー」

 通話は勝手に切れた。


 なんだか、ややこしいことになってしまったんじゃないだろうか?


 彼女になんて説明しようかと、寝室のドアを開けると、自分の目を疑った。

 これが、大の字ってやつなんだな。

 ちゃんと彼女にかけておいた布団は、ベッドの下におち、両手を広げ、足は大きく開かれている。なんか、前にも見た光景だ。ああ、また要らぬ事を思い出してしまった。


 俺は、目を閉じて、バタンと寝室のドアを閉めた。
< 89 / 145 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop