目と目を合わせてからはじめましょう
 テーブルの上のスマホを持ち、近所に出来たパン屋へと向かうことにした。

 パンを抱えて、マンションのドアの前に立つと、なんだか胸が高鳴る気がした。彼女が中にいると思うと、嬉しいような感覚が…… なんだこれ?


 買って来たパンをテーブルの上に置くと、辺りを見回す。ゴミが散らかっているわけではないが、片付いているとは言い難い。取り柄あえず、ソファーの上だけは座れるように、物をどかしたが……

 あとは、どうにもこうにも……


 寝室でガタッと物音がしたので、ドアを開けた。
 開けたドアに寄りかかり、彼女の動きを見守る。
 
 何処に居るのかも気づかず、彼女はベッドの上で、大きく伸びをした。


 「あんな事があった後でも、しっかり眠れたようで何よりだ」

 一気に彼女の顔が青ざめた。正直、見てて面白い。

 「ここは?」

 「俺のマンションだ」

 その言葉に、何か思い出したようだ。


 「どうして、起こしてくれなかったんですか?」

 彼女は、愕然とした表情で、俺に訴えてきた。

 「はあ? いくら起こしても起きなかった」

 起こしてはいないけどな。

 「そんなバカな……」

 「だから、危機感が無いって言うんだ。もう少し警戒したらどうだ?」

 「そんな事を言われたって、寝ちゃったものは仕方ないじゃない」

 開き直りやがった。


 「はあっ? 仕方ない? まあいい。疲れたんだろ。眠れたなら、何よりだ。腹減っただろ?」


 俺はキッチンに向かうと、コーヒーを入れて、ソファーに座る彼女の前に置いた。テーブルの上に、買ってきたパンの袋を広げた。
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