目と目を合わせてからはじめましょう
 彼女は、しばらく悩んだ後、ピザのパンとサンドイッチを美味しそうに平げた。

 食欲のあることに安堵する。


 彼女の視線が、カレーパンを候補から外したのが分った。俺は落選したカレーパンに手を伸ばした。正直、何を食べたっていい。

 気づけば彼女は、クルミとレーズンのパンをじっと見ている。食べたきゃ遠慮せずに食べればいいのに。甘めのパンも欲しいんじゃないかと思い買ったものだ。

 だが、彼女はパンから目を逸らし、コーヒーカップへと手を伸ばした。

 俺は彼女の前に、クルミとレーズンのパンを置いた。

 「いえ。もう、お腹いっぱい……」

 「遠慮しなくていい」

 「でも、どうしてこのパン……」

 彼女は差し出したパンに手を伸ばした。


 「それだけじっと見てたら、誰だってわかる。それに、食べられるなら、とりあえず大丈夫だな」

 「うっ。いただきます」

 うっと、した顔は一瞬で、すぐに嬉しそうに笑みを見せて食べ始めた。そんな彼女の姿を見るだけで、いつもよりパンが美味しく感じたのも本当なのだが、次に、彼女が見渡す視線にドキッとした。

 「あんまり、ジロジロ見るな。忙しくて片付けができてないんだ」

 「そうみたいですね」

 はあ? 偉そうに。

 「あんたも、人のこと言えないだろ?」

 「私も、忙しくて片付けが出来ていなかっただけです」

 「そうか、たまたま片付けが出来ていなかっただけか」

 そんなやり取りをしていたが、彼女の家に荷物を取りに行った方がいいと思った。彼女の両親に彼女を頼まれた以上、ほっておくわけにもいかないし、怖い思いをした家より、俺のマンションの方が、セキュリティもしっかりしている。

 彼女の祖母から電話のあった事も伝えなければと思った時、彼女のスマホがなった。また、祖母からかろ思ったが、彼女の顔が曇り、緊張した声で電話に出た。

 どうやら警察署からのようだ。

 当然、俺も一緒に行くつもりなのに、彼女は一人で行こうとしていた。

 無理矢理、彼女を納得させてマンションを出た。

 途中、荷物を取りに彼女の家によったが、変わった様子もなく、彼女も普段どうりの行動が出来たように思えた。
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