目と目を合わせてからはじめましょう
あなたと私に見えるもの
 〜市川咲夜〜

 気付けば、雨宮のマンションの前にいた。

 どうしても、自分の家の玄関の鍵を回す事ができなかった。昨夜の事が蘇ってきて、犯人は捕まっているとわかっていても、不安で怖くて。

 何処へ迎えばいいのか分からず、たどり着いたのが雨宮のマンションだった。

 あれだけ心配されたのに、大丈夫だと言い切って家に戻ったのにこの有様だ。雨宮だって、怒っているかもしれない。いや、怒っていた。

 それでも、マンションの部屋のドアの前まで行くと、インターホーンを鳴らしてしまった。だが、部屋の中からは、物音一つしなかった。留守なのだと分かったが、帰る事もできない。

 荷物を廊下に置くと、ドアの前に座り込んだ。いつ帰って来るかもわからないのに、ここで待つのは無謀だと分かっている。だけど、ここで待ちたかった。心細くて、涙が溢れてくる。

 私は、何をやっているのだろう。


 どのくらいこうしていたのわからないが、数時間は経ったのだと思う。エレベーターのドアの開く音がして、足跡が近づいてくるのが分かった。足跡で誰だかわかる。

 「おい。どうした?」

 その声を聞いた途端、安心したと同時に、彼の元に飛びついていた。

 「ふえ〜ん」

 「何があった? とにかく中に入れ」 


 彼に促されて、部屋の中に入った。

 その途端、雨宮がぎゅっと抱きしめてきた。突然の事に、びっくりして離れようと思ったけど、雨宮の腕の力から逃れることは出来なかった。というか、自分から雨宮の元に飛び込んだのだった。

 「無事で良かった。どうして防犯ブザー鳴らさなかったんだ?」

 私は大きく首を振る。

 「何も起きてないの?」

 「じゃあ、どうして?」

 「玄関のドア開けられなかった。平気だと思っていたのに、鍵を回そうとしたら怖くなってしまって……」

 「それで、ここで待っていたのか? どれだけ待ったんた?」

 「わからない……」



 「連絡すれば良かったじゃないか」


 「だって、連絡先知らない……」


 「ああ。そうだったか……」
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