ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険


(衝撃が強すぎて、姫岡さんたちがいなくなったことに気づかなかった……トイレに一人きり。さっさ出よう)



そしてトイレを出た時。



『ねぇねぇ雅くん~』
『んー、なに?』



誰もが悩殺されるであろう姫岡さん満面の笑みが、香月雅に向けられているのを見た。

あの笑顔を見れば分かる。姫岡さんが、どれほど香月雅を好きなのかって。対する香月雅は……誰にでも見せるような普通の笑顔だったけど。



(自分を特別視しない人を彼氏にしたい、なんて。変な話。それとも姫岡さんを虜にする〝何か〟が、香月雅にはあるんだろうか)



ふと、疑問に思ったものの。

私には関係ない話だと気づいて、二人の前を素通りした――という光景を見て以来。


私は香月雅に対して、並々ならぬ不信感を抱いている。同時に、クズ男だという認識も。

それなのに、そんな男から、
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