ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険


コンコン


「仁奈、着替えた?雨が降りそうだから出ようか。また濡れちゃいけないしね」


ガチャ


「……お邪魔しました」

「え、仁奈!?」


ノックの後すぐ、扉を開けて飛び出し
た。だって、これ以上ここにいたら潰れてしまいそうだったから。私の気持ちが、ワンワン泣いて縋ってしまいそうだから。そんな姿を見せたら、きっと引くでしょ?また拒絶するでしょ?

だったら、私は私を見せない。あなたが自分を見せないなら、私もそうする。あなたが偽りなら、私も自分の気持ちを偽る。


(やっぱり、自分の気持ちに正直になったって、何もいいことはない)


香月雅の家を飛び出して、自分の家まで走って帰る。

だけど黒い雲から、一粒ずつ雨が落ちて来た。それは列をなして、まるでツララのように私へぶつかった。痛くはない、だけど驚くほど冷たい。
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