ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険

「わ、私、帰る……!」



誰に向けての宣言か……きっと自分だろう。ヘビに睨まれたカエルになった自分に喝を入れ、今も頭で鳴り続ける警鐘に耳を澄ませた。

そう、逃げた方がいいんだ。
こういう男は、きっと危険だから。
危険な香りがするから。

だから逃げるに限る。



(私は、姫岡さんみたいになりたくない)



彼氏には自分を特別視してほしいし、大事にしてほしい。そして愛してほしい。

だから間違っても「他の女子と接触するなって言うなら別れて」なんて言う男とは、付き合わない――


って思っているのに。


この香月雅を前にすると、なぜか弱気になる自分がいる。

物理的な距離だけでなく、心の距離も一気に詰められる感覚。心の準備が出来ていないのに、堂々と上がり込んで来るスピード感。

これは……ダメだ。


これ以上一緒にいたら、のまれる。

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