ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険
「……ねぇ、小夜ちゃん」
「ん?」
「正解の恋って、楽しいのかな」
すると小夜ちゃんは小首を傾げる。そして「道から外れてなきゃ、そりゃ楽しいんじゃないの?」と。なんとも真っ当な意見を返してくれた。
ピンポンパンポーン
【 一年の小里仁奈、至急職員室に来るように。繰り返す―― 】
聞き覚えのある声……あ、数学の先生だ!昨日補習サボったから、〝放課後、職員室にくること〟って言われてたんだ!
「仁奈さ~ん、今日こそ一緒に帰れるよね?」
「さ、小夜さんも今の放送を聞いたはずじゃ……」
「誰かさんに〝明日は必ず一緒に帰る〟って言われたもんだからさぁ」
「本当にごめんなさい……!」
親友に平謝りした後、大人しく職員室を目指す。
廊下を歩いていると、学校特有の校舎の匂いにプラスして、強い雨の匂いが鼻を突く。窓の向こうは、真っ黒な空。止まない雨は、周りの空気をどんどん湿らせている。
(体が重い。天気のせいかな。こういう日は頭痛が起こりやすいから嫌だなぁ)