ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険

当たり前だけど、頭痛薬を飲まなかった私の頭は、とうに限界を越えていた。歩く振動さえ刺激となり、頭が割れる痛みが絶え間なく続く。

あぁ……無理、歩けない。


「はぁ〜…………」


廊下の壁に寄りかかる。何かにもたれていないと、しんどくなってきた。しかも気のせいじゃなければ、ちょっと気持ち悪い。やば、吐くかも……。


「うぅ、……っ」


その時。最終下校時間30分前の、恒例のチャイムが鳴る。時刻は夕方の六時半。部活以外の生徒はほとんど下校していて、長い廊下にいるのは私一人。


(もし吐いちゃうなら誰もいない方がいい。だけど……)


このしんどさに打ちのめされているのが私一人かと思うと、心細い。泣きたくなってくる。これからどんどん気持ち悪くなって、歩けなくて、学校から出られなくなったらどうしよう。


「……~っ」


歩けなくなったら、本当に吐いちゃったら――

不安で泣きそうになった、その時だった。


「いいよ、ここに吐いて」

「ッ!」


フワリと香る、知ったにおい。背中に添えられた、心地いい体温。視界の端で揺れる、白いネコのマスコット。
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