ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険

「仁奈は一人じゃない。安心して、俺がいる」

(な、んで……っ)


なんで、どうしてよ。どうしてここにいるのよ。なんで今、私の前にでてきたのよ。

まるで図ったような、絶妙なタイミングで現れた彼。いつもとは違う静かな声で、私の名前を呼んだ。


「しんどかったね。がんばったね、仁奈」

「~っ」


体が弱っている時、痛みを感じている時。どうして人は弱くなるんだろう。どうして温もりを求めてしまうんだろう。


(香月、雅……っ)


あなたとは、もうさよならしたハズなのに――


「大丈夫。仁奈が落ち着くまで、傍にいるから」

「う、ん……っ」


ポロポロ流れる涙に気付いた香月雅が、大きな親指でぬぐいとる。何度も何度も、優しく、丁寧に。

ズキン、ズキン

頭の痛みは引かない。教室に戻って頭痛薬を飲もうにも、気持ち悪くて水さえも喉を通らない。呼び水になって吐いちゃうのも怖いし。

だったら、やっぱり耐えるしかない。今ここで、香月雅に甘えるしかないんだ。
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