ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険
「ごめん、ね……っ」
「……仁奈」
まるで暖簾をくぐるみたいに。横顔を隠す私の髪を、香月雅はサラリとどかした。ぼやけた視界の先に、香月雅の整った顔がある。するとなぜか安心して、胸の窮屈さがわずかに緩んだ。
「何かしてほしい事ある?何でもするよ」
(何でもって……)
世の中的に「何でも」はNGワード。それを簡単に言ってのけるあたり、香月雅に怖い物はないんだろう。出来ないことはないんだろう。
ただ一つ、ある事を除けば。
『このピアスがある限り〝恋愛に本気にならない〟って、固い意志を持ち続けて居られる』
そう、彼は本気で恋をしない。自分自身に、そう言い聞かせている。
その言い聞かせは、彼にとってマイルールの一つにすぎないのかもしれない。だけど彼に恋する私にとっては……呪いだ。一生かけても自分に振り向いてもらえない、悲しい呪い。
(どうやったら、その呪いは解けるんだろう)
どうしたら香月雅は、もう一度、本気の恋をするんだろう。どうしたら、その目に私を写してくれるんだろう。
(どうしたら偽りじゃなくて、本物の愛をくれる?)