ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険

ズキン、ズキン

頭以外の場所で、切ない痛みを覚えた。と同時に私を支える香月雅の手に、思わず触れてしまう。


「仁奈?」

「……あ」


私、何を考えているんだろう。香月雅のことは、もう諦めたはずなのに。好きじゃないはずなのに。

……おかしいな。自分で納得したはずなのに、全身で香月雅を求めてる。ダメ、ダメだよ。この想いは忘れなきゃいけない。だって、一生かけても実らないんだよ?忘れなきゃ自分が辛いだけ。

私はもう、辛い恋をしたくない。
今度こそ平和な恋をするの。

そう思っているはずなのに――


『何かしてほしい事ある?何でもする』


「……ある」


勝手に動く口が止められない。
自分で自分を、止められない。


「仁奈?」

「……っ」


心の底に沈めた瓶。中には、報われなかった私の感情が詰め込まれている。だけど蓋が緩んで、じわじわ本音が漏れ始めた。


「してほしい事、ある」


ねぇ。お願い、香月雅。


「少しでいいから、私を好きになって」


いま私が言った事、すぐに記憶から消し去って――

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