ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険


「で?もう体は良くなったの?」

「はい、おかけ様で……!」

「ふーん」


性格は違っても、こういう根本的な優しさは変わらない香月兄妹。なんか、いいなぁ。


「元気になったら、とっとと出て行って」

(こういう切り替えの速さもよく似ている)


あ、そう言えば。妹さんに、いくつか謝らないといけないんだった。


「私、小里仁奈って言います。昨日は下校中にジュースを零してしまい、こちらでお世話になりました。あと、あなたのズボンを借りました。そしてジュースも……ありがとうございました」

「人生の最後に言っておきたい言葉はそれだけ?」

「え」


妹さんは、全男子が落ちるキュートな笑顔を浮かべる。だけど手には、なが~いビニール紐を握っていて……それをどこの誰に、何の目的で使うのだろう。


「はぁ。終わったことだし、もういいわよ。それより、アンタ本当に何なわけ?」

「何、と言いますと……」

「お兄ちゃんが、女子をこんなに特別待遇してるの見た事ない。アンタみたいな煮干し女が、どうして?」

「特別……」


とは、違うんじゃないかな。

体調不良で行き倒れていたところに、香月雅が通りかかっただけだし。介抱していたら意識がなくなったから、仕方なく自分の家に運んだだけだろうし。
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