ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険
「仁奈って不思議でさ。俺がどんなことをしても何を言っても、最終的には許してくれるんだ。笑ってくれる仁奈を見る度、過去の俺が報われてる気がするんだよ。って、まだまだ警戒されてるのか、あまり俺には笑ってくれないけどね」
(香月雅……)
あの日、てっきりナンパするために声をかけたんだと思った。なんで私にナンパ?って思うけど、相手は遊び人の香月雅だし、どんな女子に対しても声をかけるのかなって。彼に対して、勝手に線引きしてた。
でも違った。
『仁奈には、俺みたいになってほしくなかったんだ』
『だからあの時、〝恋を教える〟って言ったんだ』
全部ぜんぶ、私のためだったんだ。
「……美麗が毎日、っていうか毎秒思ってることはさぁ」
シンとした空気に水を打ったのは、美麗ちゃんの凛とした声。
「こんなにカッコイイお兄ちゃんに惚れない女子って、存在するの?しないでしょ。この人も同じだよ。〝寝てる空気〟だけで分かる。この人は、お兄ちゃんのことが好きだよね?」
「……」
「そうでしょ?」
「……うん。そうだね」
(美麗ちゃん……っ)
本来、もう顔を出すはずなかった私の気持ち。それが今、美麗ちゃんによって再び香月雅の前に姿を見せる。私の想いをくんでくれたことが嬉しくて、思わず涙腺が緩んだ。