ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険
「あの雅お兄ちゃんに、あそこまで言わせて……アンタいつまで動かないつもり?」
「……だって、」
「だってもクソもない!いいから、さっさと起きろって言ってんの!」
バサッ
めくられた布団。交わる視線。二人の目には、これでもかと溜まった涙。
私の姿を捉えた瞬間。美麗ちゃんの大きな瞳から、次々に涙が零れ始める。
「なんでアンタみたいな煮干し女に、お兄ちゃんをとられないといけないの!っていうか、なんでアンタも泣いてんの!?メンドーだから、さっさと拭きなさいよ!」
「ご、ごめなさ……っ。でも止まらなくてっ」
「あーもう!ハンカチの一つも持ってないの?ホラ!」
三角定規の一辺を下るように、ハンカチが直滑降で落とされる。私はのそのそ起き上がり、白いハンカチを握りしめた。
「ごめ、ありがと……美麗ちゃん……っ」
「うざ。お礼を言うくらいなら、さっさと動けっていってんの。私は、アンタに頼まれたことをやったわよ。きちんと協力した。アンタは?いつ動くの」
「……私、」
二転三転どころか、何回転も気持ちがフラフラしちゃって、本当に情けない。香月雅を好きなのに諦めたフリして、次の恋を探そうとしてた。でも、そんな事しても意味ないって……やっと気づいた。
恋をすると、どうしたって。
自分の気持ちにウソはつけないんだ。