ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険
「だから二人の間に多少の溝や認識のズレがあっても大丈夫だよ、香月雅。それに私たち、お揃いのネコをつけた仲じゃん」
「……たった百円だけど、ご利益あるかな」
「ふふ、あなたが言ったんだよ。〝寂しかったり元気がなくなった時はネコを見て〟って」
「あ」
確かに言った。
『その黒ネコを俺だと思ってよ、って話。寂しかったり元気がなくなった時は、黒ネコ(俺)を見て笑ってよ』
仁奈は「今はお互いにカバンがないけどさ」と苦笑する。でも笑った瞳の奥に、俺があげた黒ネコが写っている気がした。
「付き合うまでに、こんなに悩む私たちだから……この先も、きっと悩むことがあると思う。
でもそんな時は、お互いネコを見ればいいんだよ。悩んだら、猫のスタンプを相手に送ればいい。それから話せばいい。
溝って、そういう積み重ねで埋まるものだから。最初から溝をなくして〝まっ平な状態でお付き合いしましょう〟っていうのは、付き合う前から頑張りすぎてると思う」
「頑張りすぎてる……?」
「うん、だから心配しないで。私は〝今の香月雅〟を丸ごと好きになったんだから、それでいいんだよ」
って思うんだけど――と。ハッとした後、仁奈は恥ずかしそうに視線を下げた。
「ごめん。なんか、恥ずかしいことをたくさん言っちゃった」
「……ううん、勉強になりました」
素直に言うと、仁奈は嬉しそうに顔を上げ「へへ」とはにかむ。