ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険
焦った顔の雅が、息を切らせて私まで走って来た。どうしたの?何かあった?
「よかった、仁奈。ここにいた」
「雅、どうしたの?」
「授業始まったのに帰ってこないから……心配するでしょ、普通」
「心配って……学校で迷子にはならないよ?」
「……」
真剣に言うと、雅はみよ~んと。餅みたいに、私の頬を伸ばせるだけ伸ばした。
「いた、いたた!」
「分かってないなぁ。俺が心配してるのは……まぁいいや。それで?響谷との話は終わったの?」
はぁと大きな息を吐き、私に向き直る雅。あ、もしかして雅の「心配事」って……。
なんとなく働いた直感を信じ、響谷くんから預かった伝言を伝える。
「響谷くんが『今回は奇跡的に補習逃れたから安心しろ』って雅に伝えてってさ」
「……ん、把握」
「理解できた?もういいの?」
「うん。いい」
それ以上の言葉は、いらないらしい。私と響谷くんが何を話したのか。雅は、そこまで聞かなかった。