ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険
付き合ってない男女なんて、ただの赤の他人だ。いや、付き合っていても赤の他人なんだけど。
そこから情をとったら、もう何も残らない。それを元カレも承知のことだったんだろうな。
別れ話が終われば「じゃ」と。何事もなかったように、私を置いて自分だけ帰路についた。
自分だけの世界に帰って行く元カレ。あの世界に、ついさっきまで私も加わっていたと思うと……
遠くなる背中に、未練がましく手を伸ばしてしまう。
「……何やってるんだろう。ダメダメ」
梅雨入りしたけど、今日は晴れ。
不幸中の幸いというべきか、フラれた日に雨だった……なんて勘弁してもらいたい。
「雨は降らない、けど……なんか匂うなぁ」
湿気の匂いでもない、アスファルトの匂いでもない。雨が降りそうな独特の匂い……ではないけれど。
いつもは違うソレが、鼻孔をくすぐる。