ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険
「仁奈、知ってる?太陽の下の仁奈って、キレイなんだよ。変な話さ、仁奈が鈴木にフラれた日……あの時、公園にいた仁奈は別格だった」
「別格?」
「少し儚げで、哀愁が漂っていて。それでいて、どうしようもなく綺麗だった。たぶん俺は、あの時から仁奈の事が気になっていて……ずっと忘れられなかったと思う」
「そう、なんだ……」
あの惨めな時間が、途端に神秘的なシーンに塗り替えられた気がして。雅の言葉選びに、また救われる。
あの日フラれたことにも意味はあった。雅に「キレイ」と言って貰えたんだから。
(ありがとう、雅)
泣くと「また仁奈を独り占めしてる」って言われそうだから、こっそり涙を拭きとる。
だけど、その時の振動とか雰囲気で、きっと雅は気付いていたと思う。だって私を慰めるように、握った手に力が込められたから。
「よし、着いた。けっこう階段のぼったね~」
「さすがに暑いね。早く外の空気にあたろう?」
「う~ん」
「雅?」
屋上へたどり着き、幸いにも鍵が開いている事を確認した。まさか屋上に行けるなんて!とテンションを上げる私とは反対に、雅は笑みを浮かべたまま眉間にシワを刻む。
「ねぇ仁奈」
私を見る視線が、少し鋭い。まるで捕食者のような眼光。さらに次第に濃くなる、危険な香り。