ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険


『調子が悪いんじゃないの?本当に大丈夫?』


という言葉を、お母さんから五回くらい聞いた時。私は家を出た。目覚めの悪い私が珍しくキリキリ動いてるからって、不信感を抱かないでほしい。


「不信感、か……」


頭の中で、うそくさい笑みを浮かべる香月雅を思い出す。


『ねぇ俺と付き合う?付き合わない?』


そんなセリフのあとに、キスをされたわけだけど。

結局、私と香月雅は付き合ってないよね?さすがに私にも人権はあるよね?「付き合う人を自由に選ぶ」って言う、人権がさ。


「はぁ……思い出しただけで、朝から気が重い」


ため息をつく内に、もう下駄箱まで来てしまった。

そう言えば、あの香月雅と、学校も学年もクラスも同じだったと思い出す。


「あ」
「……あ~。お、おはよう」


そして……昨日別れた元カレとも、その条件が同じだった。

高校一年生の六月。席替えはおろか、クラス替えなんてまだまだ先なのに。同クラ男子とさっそく気まずい仲になるなんて……。

とりあえず挨拶はしたけど、どうしよう。やっぱり気まずい。
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