ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険
「あの二人、別れたらしいよ」
「えーまじ?早くない?」
「でも別れの現場を見た人がいるって」
当の二人が話さないのをいいことに。周りの女子が、素早くヒソヒソ話を始めた。
あぁ、やっぱり。そうなりますよね……。
(しばらく学校で居心地悪いだろうなぁ)
でも仕方ないか、と私は腹を括ったのに。
元カレこと・鈴木くんは、ヒソヒソ話に耐えられなかったらしい。靴を乱暴に下駄箱に入れると、
「はぁ……まじ面倒」
と。私だけに聞こえるような小さな声で。だけど私にだけは聞かせてやるぞという、ハッキリした意志を持って。
吐き捨てたように呟いた後、室内シューズに履き替えていた。
(なんで、そんなこと……っ)
こみあげてくるのは、虚しさ、恥ずかしさ、そして悲しみ。
顔を歪めるくらい、そんなに私と別れたかったんだ……。私、さっき結構がんばって挨拶したんだけどな。
その努力も、今にも舌打ちが聞こえてきそうな顔でスルーされる。遠くなる背中には「話しかけるな」と書いてある。