ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険
「おはよう、仁奈」
(香月雅……!)
突然現れた人は、まるで空気を操っているかのように。この場にいる全員の視線を、一瞬にして自分へと集めた。
黒色の猫毛から覗く漆黒の瞳が、私を捉える。鈴木くんの言葉で凹んでいる、私を。
「そう言えばさ」
同じクラスだから、下駄箱の位置も大体同じ。香月雅はシューズを床に落としながら、横目でチラリと私を見た。
「告白の返事、考えてくれた?」
「……へっ?」
今、この環境で、自分が注目を浴びていると知りながら、この発言。
当然、周りの女子も男子も、まるでお祭り騒ぎみたいに声をあげる。
「えー!?あの雅くんが告白!?」
「じゃあ鈴木と小里が別れたのって、香月が原因!?」
「じゃあ三人は三角関係ってこと!?」
「小里さん羨ましいー!!」
(じゃあ代わってください、お願い……!)
もちろん私の悲痛な叫びは、この男により阻止されるわけで。