ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険
「それに、朝は一緒に行こうって言ってたのに。どうして早く行くかなぁ。あ、もしかして恥ずかしかった?」
「一緒にって……」
そんな約束してない!
言い返そうとしたら、口を開けさせまいとするためか。香月雅の人差し指が、私の口を押さえた。
さらに顔を近づけ、二人にしか聞こえない声で話す。
「あぁ、そうか。キスに夢中だったから、聞き逃しちゃったんだ?」
「っ!」
「じゃあ今日の帰りは一緒に帰ろうね。約束だよ、仁奈」
私の口から離した手を、自分の唇にちょんと当てる。その仕草に、周りの女子が「ほぅ」と。生ぬるいため息をついた。
「おーす雅。なにやってんの」
「可愛い子に挨拶してただけ」
「また?朝からよく疲れねーな」
「むしろ逆。俺が癒されてんの」
その後、疾風のごとく香月雅は下駄箱を去った。公開告白を受け、固まった私のことは置いてけぼりにして。