ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険


(って、そうじゃなくて)


スタスタと。私の手を握り、下駄箱へ向かう香月雅。

私の方は一切見ないくせに、私の歩幅に合わせて歩いてくれている。

そんな姿を見てると、女慣れしてるなぁって。思わず感心してしまった。


でも……一緒に帰るって約束が本気だったならさ。


同じ教室なんだから、ホームルームが終わって、すぐ話しかけてくれたら良かったじゃん。

なのに香月雅は、さっきまで教室にいなかった。ってことは……やっばり約束を忘れていたって事でしょ?


(〝そういえば〟って思い出して、急いで教室に引き返したに決まってる)


って思うけど、


『仁奈は、かわいいから』


さっきの言葉が割と嬉しかった私は……少しだけ、淡い期待を抱いてしまう。

香月雅は「本当に私と帰りたかった」んじゃないかって。
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