ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険


(あぁ、流されてるなぁ。私)


こうやって女子の弱いところを的確に突いてくるあたり。やっぱり香月雅は、危険な男だ。


「あ、雅く〜ん。さっきはどうも。また明日ねぇ」

「うん」


(……さっき?)


シューズの色は二年生。香月雅は、先輩と何してたんだろう。

ハテナを浮かべる私だけど。さっき香月雅が言ったことを思い出す。


『ちょっと野暮用』


あぁ、野暮って……そういうこと。

つまり、ホームルーム後に教室を離れていたのは、女子の先輩といかがわしい用事があったから……ってわけだ。


(……バカみたい)


淡い期待を抱いた自分を、殴ってやりたい。香月雅はクズな遊び人って知ってるのに、絆されかけた。

それに、本人も言ってたじゃん。


『愛してあげる……偽りでも良ければ』


鈴木くんから庇ってくれたように見えたのも、タイミングが良かっただけ。私を可愛いと言ったのも、その場限りのウソ。

……危ない。今まで何度も恋で傷ついてきたのに、また新たな傷を作るところだった。


(ふぅ〜……)


怒らない。怒る理由がない。
傷ついてないし、悲しくもない。
私はいたって平常心、平常心。

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