ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険


「ねぇ仁奈」

「――え?」


考えに耽っていると、急に名前を呼ばれた。前を向いたまま立ち止まる香月雅は、「こっちに来て」という。

こっちって、前に来いってこと?

よく分からない要求を渋々のみ、香月雅の正面に立つ。すると……


「なんで、怒ってるの?」


香月雅の眉間に、何故か刻まれているシワ。陶器のような滑らかな肌に、それはかなり悪目立ちしている。


「俺は、君に怒ってる」

「わ、私に?」

「そう。仁奈ってさ、どうして俺に言うみたいに、鈴木にズケズケ物を言わないの?」

「ズケズケって……」

「昨日の仁奈の方が君らしいよ。自分の考えを、もっと相手に伝えたら?

もしかして付き合ってた時も、ろくに自分の意見を言わなかった?」

「!」

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