ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険

「香月くんすっご。女子集団に食われて怖くないの?」

「まだ食われてないよ……。でも、あの慣れた反応。やっぱ普通じゃないよね」

「さすがイケメン・遊び人・香月雅サマ、ってね」


お弁当を片付けて「は~午後の授業ダル」とこぼす小夜ちゃん。そんな彼女に相槌を打ちながら、チラリと香月雅を盗み見る。


(確かに、さっきよりは真っすぐになってるけどさ)


女子達により、ネクタイは結われ直したハズなのに。

なぜか私の目には、まだ歪んで見えた。





「おーい仁奈。メール見てくれた?」

「……今日は一緒に帰らない、ってやつ?」

「よかった、見てくれてた」


放課後。
各自解散となったところで、香月雅はカバンを手に持ち、私の机まで来た。


「返事がないから、見てないのかと思った」

「〝既読〟になってたでしょ?」

「手が当たってメールが開いただけって可能性もあるしね。念のためだよ」

「……ふぅん」


元カレだったら「返事くらいしろよ」とか言いそうだけど……違うんだ。


『よかった、見てくれてた』


こういう時、香月雅は「よかった」って言うんだ。

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