ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険
「――ってわけだから。って、仁奈きいてる?」
「え?あ、うん……分かった」
危ない。
また〝のまれそう〟になってた。
香月雅の魅力は、さすがプレイボーイと言われるだけあって、底知れない。だから、たまに自分が無意識の内に、彼の魅力にのまれていることがある。
今回で、何度目だろう。
本当に気をつけなくちゃ……。
香月雅への挨拶もそこそこに、私は小夜ちゃんと帰るために準備をする。二人で課題の確認をするわけだけど、結局ほとんどの教材を机へ置いたまま、下駄箱を目指した。
「さっき香月くんが、仁奈のそばに寄った時。私って隣にいたじゃん?」
「いきなりどうした、小夜ちゃん」
「いいから聞いて」と。
小夜ちゃんは顔に暗い影を落としながら、下駄箱から靴を取り出す。
「あの時の香月くん、私のことを一度も視界に入れなかったよ。むしろ存在を忘れられてたっていうか……。香月くん、仁奈のことしか見てなかった」
「え」
私のことしか……?