ゆがんだ溺愛は、芳醇で危険
放課後の光景を思い出すと、確かに。香月雅が、私の隣で何かを喋っていた気がする……。
『――ってわけだから。って、仁奈きいてる?』
……あぁ。あの時は、考えにふけっていたから。上の空で返事をしちゃったんだ。
「ごめん……聞いてなかった」
「だと思った。ってことで。俺の人格に対する誤解が、一つ解けたね。あと今日のお昼休み。ネクタイが曲がっていたのは、女子に迫られたのが理由」
「せま、……え?」
「でもキスで許してもらったから、未遂だよ。未遂」
(キス!?)
衝撃発言に、持っているフラペチーノを落とすところだった。
キスしたから未遂?――頭の中で「いやいやいや」と、たくさんの私が否定している。
だってさ、キスはキスじゃん。
唇と唇を合わせたんでしょ?
なら未遂じゃなくて、既遂じゃん。