青春は、数学に染まる。 - Second -
車はあっという間に私の家の前に到着した。
先生と過ごす時間は短く感じる。今日1日がもう終わるなんて、考えられない。
「裕哉さん、今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました。来週からまた頑張れます。数学のお勉強も頑張りましょうね」
「はい! あと…裕哉さん。何か悩みがあれば…お話をしてください。私は裕哉さんの支えになりたい…本気でそう思っておりますから」
「…ありがとうございます。心強いです」
最後に先生と握手をして車を降りる。
すると、ほぼ同時くらいに家の中からお父さんが出てきた。
「え、お父さん?」
「真帆、おかえり。裕哉くんもおかえり」
お父さんはゆっくりと歩いて車に近付いてくる。
その姿を見た先生は急いで車から降りた。
「ご無沙汰しております」
「裕哉くん、また食事に来なさいよ。遠慮しなくて良いから一緒にお酒飲もう。わしはずっと待っているんだよ」
「お父さん…」
そういえば、ずっと前からお父さんは言っていた。先生とお酒を飲むことを楽しみにしている。
事あるごとに先生の名前を出すんだよね。
「お父様…ありがとうございます。是非、今度お伺いさせてください。必ず、ご一緒させて頂きたく思います」
「そんな畏まらないでよ。あ、そうそう。わしが出張行った時に裕哉くんにもお土産を買っていたんだ。それを渡しに出てきたんだよ」
「え、お父さんいつの間に!?」
「真帆にも内緒でなぁ」
お父さんは小さな袋を先生に差し出した。
「あ、ありがとうございます…! すみませんお気遣い頂き…」
「気遣いじゃないよ。わしは裕哉くんのことが気に入っているから。ただそれだけ。じゃあ、待っているから。またおいでね、裕哉くん」
「はい、ありがとうございました」
お父さんは片手を上げて家の中に戻って行った。
先生はお父さんに向かって深く頭を下げている。
「えぇ…お父さん、急にびっくりしたぁ…」
「………」
「裕哉さん?」
頭を下げたまま動かない先生は、見たこともないくらい号泣していた。
「…裕哉さん…」
「あぁ…ごめんなさい、真帆さん。嬉しくて」
私は鞄からハンカチを取り出して、先生の顔を拭った。
「裕哉さん、本当に泣き虫」
「泣き虫です。けれどこれは…嬉し涙ですから」
お父さんが先生に渡したお土産は、日本酒3種の飲み比べセットだった。どれだけ先生にお酒を飲ませたいんだ…。
「今度また、必ずお伺いしますから。お母様にも宜しくお伝え下さい」
「分かりました」
「では、また」
「ありがとうございました…」
目元を真っ赤にした先生は感情が落ち着いたタイミングで足早に帰って行った。
ご両親のことで傷心していた先生。
だからこそ、今回のお父さんの行動は余計に沁みたのだろう。
「……傍に、居てあげたかったな」
そう思うと同時に、お父さんが先生を本気で受け入れてくれていることに喜びを感じた。
色んな感情が渦巻いている。
私は小さく溜息をついて、家の中に入った。