青春は、数学に染まる。 - Second -

着任式が終わり、始業式に入る。
校長先生の長いお話が終わった後、楽しみにしていた担任発表。

アナウンスが流れると、生徒たちはザワザワし始めた。

3年生から順に発表されていく。



「真帆、ドキドキするね」
「……うん、そうだね」

後ろに座っている有紗が私の肩を掴む。
ダメだ…心臓がバクバクする。




「続いて2年生です。1組、飛谷先生」

おぉ!! 1組から歓声が上がる。予想していた飛谷先生の線は無くなった。




次だ。私のクラス。有紗は私の肩を掴んでいる手に力を入れる。


「2組、浅野先生」
「えぇ!?」


思わず声が出た。2組の生徒から黄色い歓声が上がる。
まさか着任して来たばかりの先生が担任になるとは思ってもいなかった。

浅野先生は2組の列の前に来て、深く一礼をした。
ニコっと人懐っこい笑顔が印象的だ。



「あの人、妬きそうだね…」

有紗が耳元で囁いた。有紗の言うあの人とは、早川先生のこと。

そうね…ヤバいかもね…何て思っていると、次に呼ばれた名前に驚いた。


「3組、早川先生」


えっ!!! 反射的に心臓が飛び跳ねた。

早川先生、隣のクラス!?


3組から不満そうな声が上がった。知っていたけど…早川先生は生徒からの人気が無い。

早川先生は3組の列の前に立って一礼した。


先生は軽く唇を噛んでいた。何か考えているような表情。



私は早川先生に視線を送ってみる。しばらくすると、視線に気付いた先生もこちらを見た。


そして先生は一瞬だけ眉間に皺を寄せて視線を外す。


「…ふふ」


何か言いたげな早川先生の表情に思わず頬が緩んだ。



「…ねぇ真帆。クラス違うけど。修学旅行、一緒に行けるんじゃない」
「確かに。そうかも」


有紗の一言に心臓がドキドキし始めた。



1年の時、早川先生は違う学年で担任をしていたけど、今回はうちの学年ということは…そういうことだ。修学旅行もそうだけど、他の様々な行事も関わることができる可能性はある。


「真帆、耳まで赤い」
「や、やめてよ!」


けど、早川先生が隣のクラスの担任なのは少し複雑かも。
先生が担任だとやりづらいと思ったこともあったが、今は少しジェラシーを感じる。



私の担任だったら良かったのに。心の奥底で、密かにそう思った。






始業式が終わり、教室に戻る。
生徒たちと一緒に浅野先生も教室にやってきた。


「席について下さい! 改めて、ホームルームを行います!」

元気よくそう叫んだ浅野先生。
生徒たちは素直に席に着く。

「はい、では皆さん。改めまして、おはようございます!! 僕は、ここ2組の担任となりました、浅野と言います! 数学担当ですが、残念ながら皆さんの数学は早川先生が担当になるので、僕は見ることはありません。ですが! 分からないことがあればいつでも教えることはできますので! 気軽に声を掛けて下さいね!」

浅野先生はそう言い終えた後、ガッツポーズをした。
誰からともなく拍手が沸き起こる。

「はははー! ありがとう!!」

伊東とはまた違ったタイプ。個人的には苦手だと直感で感じた。
出来れば、関わりたくない。…担任だから無理だけど。



そう思うと同時に、浅野先生が言った言葉が頭の中を回っていた。

“皆さんの数学は早川先生が担当”




心の中で私もガッツポーズをした。





< 2 / 94 >

この作品をシェア

pagetop