青春は、数学に染まる。 - Second -
活動が始まって1時間が経過した。
私は、問題を解く速度が格段に上がっていた。
「藤原さん、家でどれだけ勉強しているのですか」
「最近は2時間くらいですかね。他の科目も予習をしているので、大体そのくらい」
「凄いですよ…」
ただ、正解率は低い。
10問解いて3問正解していれば良い方だが、1年の頃と比べたら大きな成長だ。
「真帆、遂に赤点回避? 真帆の取り柄が無くなっちゃうよ~」
「大丈夫ですよ的場さん。まだ赤点回避の域に達しておりません」
「あ、本当? 何だか安心したぁ!」
「2人とも何よそれ!!!」
早川先生も有紗も失礼だなぁ…。
こんなにも頑張っているのに。
やる気の無かった頃は良いよ?
何を言われても。
けれど今は勉強を頑張っているから…少しモヤモヤする。
「藤原さんが数学出来るようになったら担任の僕も誇らしいよ。成績見たけど、数学以外は90点以上で通知表も5だったね! 前任校でもそんな生徒見たことないから本当凄い!!」
浅野先生はそう言いながら私の方に近付いてきて、肩をポンポンと叩いた。
その様子を見た有紗の顔が少し焦る。
「あ、浅野先生。そういえば私時間かも! 先生も軽音部行かないと!」
「そうだった、忘れるところだった!!」
有紗は慌てたような様子で荷物を鞄に詰めた。
「ほら、先生一緒に下に降りようよ! ね、ほらほら!」
「あ、うん分かった。じゃあ藤原さんまたね! 早川先生、また軽音部終わったら戻ります!」
「真帆と早川先生、じゃあね!」
有紗は浅野先生の背中を押しながら数学科準備室から出て行った。
「…………」
私はゆっくりと早川先生の方を向く。
その顔からは感情が読み取れなかった。
「先生?」
固く口を閉ざしている先生は、私の肩に手を乗せて何かを払うような動作をする。
「少し、隙があります」
「え?」
「簡単に触られすぎです」
「……」
そう言う先生は少し口を尖らせていた。
「隙って言いますけど…そもそも、思い出してください。先生だってあれだけ私に触れていたではありませんか」
「……」
無言で肩を払い続ける先生。
暫く黙り続けたのち、小さく口を開いて微笑んだ。
「そうでしたね」
浅野先生に嫉妬しているのだろうなぁ。
早川先生は何も言わないけれど、手に取るように分かる。
結局その後、先生は活動を再開させることなく終わらせた。