青春は、数学に染まる。 - Second -
「はい、始めますよ」
本鈴が鳴ると同時に教室の扉が開き、早川先生が入ってきた。
久しぶりに見た先生の表情は、少しやつれていた。
「起立、気を付け~礼。お願いします~」
「お願いします」
日直の号令で授業が始まる。
早川先生は、一切こちらを見ない。
「テストの返却をします。呼ばれたら取りに来てください」
…ドキドキする。
あれだけ頑張ったのだから。赤点だけは回避したい…。
「ねぇ真帆。先生元気無くない?」
「…うん」
斜め前に座っている有紗は、そっと立ち上がって私に耳打ちする。
「やつれているよ」
「そういうことか。どうしたんだろ、真帆のせい?」
「………さぁ」
「真帆が酷いこと言うから~」
「いや、酷いのは私じゃなくて向こうね」
つい、溜息が漏れる。
そうは言ったものの…私が悪かったのかも。
何だかそんな気がしてきた。
「藤原さん」
「あ、はい」
名前を呼ばれ、答案用紙を受け取りに行く。
「……」
「……」
先生も私も、何も言わない。
「真帆何点?」
「まだ見てない。ちょっと待って」
ゆっくりと答案用紙を開いて点数を確認する。
31点。
「あ…赤点回避…している」
「え、マジ!? おめでとう!!!」
31点。
決して高くはないけれど、赤点を回避したのは私にとって大きな成長だ。
ほら、早川先生!!!
私だってやれば出来るんだから!!!!!
そう思いながら先生に視線を送り続けるも、一切こちらを見てくれなかった。
「真帆~本当凄いよ! 尊敬する~」
「そういう有紗は?」
「私は54点! 結構良くない?」
「有紗も点数伸びたね!」
授業が終わり、有紗とお互いを褒め称え合う。
低レベルの点数で喜び合う私と有紗。
だけど私たちにとっては凄いことだから!!
「ところで、同好会は行くの?」
「そりゃ…まぁ、行かないといけないよね」
早川先生と会うことに少し緊張するが…。
有紗と一緒なら大丈夫。
そう思っていたのに。
「因みに今日は私、帰るから!」
「えぇ!?」
有紗の突然の裏切り!!!
「何で、一緒に行こうよ!!」
「今日は空手の開始が早いの!」
そう言う有紗の顔は少し笑っている。
…嘘だ。率直にそう思った。
「浅野先生にも言っとくから、真帆は活動頑張ってね!」
有紗による最大限の気遣い。
早川先生と2人にさせようという考えなのだろうなぁ。
「有紗…」
「ほら、何も言わないこと。…ちゃんと話してきなさい!」
そう言ってガッツポーズをした。
はぁ…有紗には敵わない。
「ありがとう、有紗」
「良いってことよ! 勉強したくないし!」
あ。
最後に笑顔で元も子もないこと言ったよ、この人!!
そっちが本音だったか!!
けれどまぁ、有紗が入部してくれたおかげで浅野先生の件も落ち着いたし。
本当、感謝しかない。
ありがとう、有紗。
今日はゆっくり頭を休めておくれ…。