青春は、数学に染まる。 - Second -
「藤原さん、何で連れて来られたか分かる?」
「分かるよね、賢いアナタなら」
連れて来られた場所は空き教室棟の裏だった。
元々人気の少ないこの校舎。その裏なんて人が寄り付かない。
「分かるよ。神崎くんと話しているのが気に入らないのでしょう」
「そうよ。良くわかるじゃない。アンタみたいな地味ブスに、何で大輔が構うのか全然分からなくてね。どうせ調子の良いこと言って大輔のことを離さないようにしているのでしょう!?」
言っている意味がサッパリ分からない。
あなたたちはもう少し当人を見た方が良い。
本当にそう見えているのだとしたら、眼鏡でも勧めてみようか。
「私はね、神崎くんからの好意に対して、誠意をもってお断りをしているの。私には好きな人がいるから、神崎くんの思いには答えられないって、何度も何度も言っているの。諦めてくれないのは…神崎くんの方だよ」
そう答えると、取り巻きの1人が拳に力を入れた。
「は? 何なのそれ。私は興味無いのに、向こうから言い寄られて困る的な感じで言ってる? 舐めてんの?」
「アンタ大輔のこと何も知らないくせに。調子に乗ってんじゃないよ」
「いやだからさ、話聞いてくれた? 何も知らないもなにも、本当に興味無いの。むしろ、あなた達から言ってくれない? 付きまとうなって」
「はぁ!? 誰が言うかよ!!! お前に指図されたくないし!!!」
「………」
話が通じない人たちだ…。
話の内容が支離滅裂で、会話していると頭がおかしくなりそう。
「ねぇ、こいつやっちゃう? 4人いたら勝てるやろ」
「そのムカつくツラをぐちゃぐちゃにして、大輔が近寄らなくなるようにしようや」
「賛成! 弱そうやし行けるやろ!」
いや、何なのこの人たち…。
今どき暴力で解決させようとする女子がいるなんて。
冷静にそんなこと考えていた。
…しかし、勝てないよなぁ。
有紗と違って、武道経験は無いし。
叫んでも、声も届かない。
キャッキャッと盛り上がっている4人。
その中の1人が急に走ってきた。
私の顔を目掛けて拳を振ってくる。
「え」
「まずはウチから!」
その拳は位置が少しズレて、私の耳を掠める。
「まだまだ」
もう一度拳を振り上げる。
今度は頬に当たった。
「いたっ」
「次は私~」
「というか、みんなで行った方が早くね?」
「そうしようか」
その一言を皮切りに、4人は蹴ったり殴ったり、髪を引っ張ったり…好き放題してくる。
痛い…痛すぎる…。
けれど、ここで私も手を出したら負けだ。
いずれは終わる。
そう信じて、ひたすら耐えた。
「ねぇ〜…こいつ面白くない。全然反応しないんだけど」
「やり返してこないところも、何かいい子ちゃんぶってて癪よね」
「ほら、何か言えよコラ!!!」
ドスンと重い一発がお腹に入る。
私はそのまま、地面に倒れ込んでしまった。
「………何か、ホンマ面白くないわ。興ざめするし、やめよーや」
「そうやね。…お前、とにかく今後大輔に近寄るなよ。さもないと次はもっと酷いことするから」
キャハハハと笑いながら4人は去って行った。
私は…全身が痛くて、動けない。
「…………」
どうしよう。
まさか、こんな状況に自分が遭遇することになるとは。
想像すらしたことなかった。
漫画で見たことがある。
悪い人に暴力を振るわれるヒロイン。
そんなヒロインのピンチに主人公が気付いて、助けに来るんだ。
助けに来たよ。
…そんな、よくある物語。
しかし、痛い。
痛すぎで体を動かせない。
スマホは少し先に転がっている鞄の中にあるし…。詰んだな。