青春は、数学に染まる。 - Second -
今日は1日ベッドの上でゴロゴロと過ごした。
気付けば、時計の針は18時過ぎを指している。
コンコン
「真帆、今大丈夫?」
「大丈夫。おかえり、お母さん」
「ただいま」
ゆっくりと扉を開け、お母さんが入ってきた。
「調子はどう?」
「痛みはあるけれど、昨日ほどでは無くなったよ。ゴロゴロして過ごせたし、土日もこの調子で過ごしたらもっと良くなるんじゃないかな」
「…そう。良かった。あ、これ。飲み物を頂いたよ」
「お。ありがとう」
お母さんは私にペットボトルの飲み物を渡してくれた。
期間限定のカフェラテ…カステラ風味!?
「な、なにこれ…」
「面白いわよね。お母さんも見たこと無い」
カフェラテのカステラ風味はヤバいでしょう…。
そう思いながら、言葉の違和感に気付いた。
「…あれ? ていうか。お母さんが買って来たんじゃないの?」
「頂いたの。下に降りられる? 今もいらっしゃるわよ」
「…あ…うん、降りようか…」
手摺を持ってゆっくりと1階へ降りる。
リビングには楽しそうな笑い声が響いていた。
「あ………早川先生…」
「真帆さん。お邪魔しております」
先生はソファに座って、お父さんとお茶を飲んでいた。
「お体の方はいかがでしょうか。良くなりましたか?」
「はい、痣は酷いですけど…痛みは軽くなっています」
「そうですか…。良かったです。安心しました」
お母さんに促され、先生の隣に座る。
先生は嬉しそうに微笑んだ。
「あ、そういえば先生…。これ、ありがとうございます」
カフェラテのカステラ風味。
摩訶不思議な飲み物。
先生は甘い物が好きだけれども、こういう変わり種の飲み物も好きなのかな。
「いえ、是非飲んでみてください」
「……カフェラテのカステラ風味って、初めてみたのですけど…美味しいのですか?」
「僕は美味しいと思います」
その言葉を信じて飲んでみることにした。
キャップを開けると漂う甘い香り。
一口飲んでみる。真っ先に甘さがやってきて、その後ほのかにコーヒーがやってくる。
カステラ…と言われれば、カステラなのか?
何と表現すれば良いのか分からない味。
うーん。不味くはないが……ただただ、甘い。
「…甘いですね」
「美味しいですか?」
「…まぁ、甘いです」
「………それは美味しくない反応ですね…」
先生の言葉は少し不満そうだったが、その顔はニコニコと楽しそうだった。
「さて、夕食にしようか。真帆、今日は裕哉くんも食べて帰ってもらうから。お酒も沢山用意したぞ~」
「今日は車を家に置いてきております。そして僕も、持ってきました」
そう言いながら2人は袋からお酒を取り出した。
無邪気な笑顔に私も頬が緩んだ。
「真帆さんにはこれもあります」
「ん?」
差し出されたペットボトル。
「………炭酸フルーツポンチ?」
「はい。フルーツポンチ味の炭酸飲料です。お酒はダメなので、これを飲んでみて下さい」
有難い。先生の気遣いは凄く嬉しいけれども。
チョイスが独特なのが気になる。
どこにでも売ってある飲み物では無い。一体どこで買ってくるのだろうか…。
しかし…これは普通に美味しそうだな。
フルーツの絵が描かれているポップなデザインのラベル。見た目が可愛い。
さっきのカフェラテのカステラ風味よりは良さそう…そう感じた。
「ありがとうございます。これは美味しそうです」
「…これは、ということは…やはりカフェラテは微妙でしたか」
「いえ…微妙というか、甘いというか…」
「そうですか…」
先生は私の手からカフェラテのカステラ風味を取り、それを普通に飲んだ。
「…美味しいですよ、これ」
「………」
血が全身を一気に駆け巡り、体が熱くなる。
先生…それ…か、間接キス…!!!
驚きすぎてそのまま固まってしまった私。
そんな様子を見ていたお父さんが、笑いながら茶化した。
「そのくらいで真っ赤になるなんて、真帆もまだまだだな!!」
お父さんにそう言われること自体恥ずかしい。穴に埋まりたい…。
優しそうな表情でこちらを見ていた先生は、私の耳元で小さく囁く。
「それ以上のこと、もう何度もしているではありませんか」
「!!!!」
せ、先生の馬鹿!!!!
意識が跳びそうになるくらい、頭がクラクラした。